“ホルモン”のチョコット知識⑨
脳内ホルモン
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Ⅷ.脳内ホルモン
ホルモン(Hormone)のなかでも、主に脳内でつくられ、脳内で働くホルモンは脳内神経伝達物質ともいわれ、さまざまな快楽や悩みを生み出し、学習や記憶能力を左右します。
脳は神経細胞のネットワークによって活動し、
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神経細胞内部では、情報は電気信号で伝わります。
そして、一つの神経細胞から別の神経細胞へは、長く伸びた軸索の末端から樹状突起へと情報は伝達されます。
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ところが、この軸索の末端と樹状突起の間(シナプス)には、わずかなすき間(シナプス間隙)があり、情報を伝えることができません。
そこで、このシナプス間隙に分泌され、神経細胞同士の情報の伝令役を担う化学物質が脳内神経伝達物質といわれるものです。
主な脳内神経伝達物質には
*アミノ酸類
〇グルタミン酸(興奮性の神経伝達物質)
〇アスパラギン酸(興奮性の神経伝達物質)
〇γーアミノ酪酸(ギャバ:抑制性の神経伝達物質)
〇グリシン(抑制性の神経伝達物質)
*モノアミン類
◎カテコールアミン類
〇ドーパミン(興奮性の神経伝達物質)
〇ノルアドレナリン(興奮性の神経伝達物質)
〇アドレナリン(興奮性の神経伝達物質 恐怖、やる気に関係)
◎インドールアミン
〇セロトニン(調整役の神経伝達物質)
〇メラトニン(松果体から分泌される体内時計に関与)
*神経ペプチド(麻薬様物質)
〇エンドルフィン(内在性鎮痛系にかかわり、多幸感をもたらす)
〇エンケファリン(内在性鎮痛系にかかわり、多幸感をもたらす)
*コリンの酢酸エステル化合物
〇アセチルコリン(興奮性の神経伝達物質)などがあります。
シナプスでの脳内神経伝達物質の挙動が神経細胞の興奮の度合い、すなわちヒトの脳の働きを決めています。
[主な脳内神経伝達物質とその放出神経]
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このため、脳内神経伝達物質の量は厳密にコントロールされています。つまり、.
ヒトの心の状態は脳の神経細胞におけるシナプスで放出される脳内神経伝達物質の性質と量とによって決まります。
[脳内神経伝達物質と疾患]
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認知症にはアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)や血管性認知症、レビー小体型認知症などがありますが、
アルツハイマー病は脳動脈硬化が原因で起こる血管性認知症とは違って、病態促進因子であるアミロイドβ(amyloido beta:Aβ)たんぱく質が脳内に沈着することにより発症するとされています。そして、記憶と言語と認知機能の欠落が進行する病気です。高齢者主として65歳以上に多く見られます。
アルツハイマー病では脳内神経伝達物質のうちアセチルコリンの働きが低下しているといわれていますが、脳内の過剰なグルタミン酸の関与も考えられています。
パーキンソン病は手足が震えたり全身の動作が鈍くなるといった症状で始まり、ゆっくりと進行する病気です。
脳内神経伝達物質のドーパミンが脳の病変によって不足するのが原因とされています。同じような症状が脳血栓が原因で出たり(脳血管性)、薬の副作用として出ることもあり(薬剤性)、まれに脳炎後にも発症します。これらはまとめてパーキンソン症候群(Parkinsonism)といわれます。
また、アセチルコリンの濃度が過剰になるとアセチルコリン神経の興奮が高まりパーキンソン病特有の症状が現われます。
最近、パーキンソン病と類似する症状を有し、精神症状が目立つレビー小体型認知症や最初から転倒傾向の強い進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)が注目されていますが、両者ともにパーキンソン病治療薬に対する反応が少ないのが特徴です。(レビー小体型認知症にはアリセプトが有効なことが認められています。)
また、ヒトES細胞やヒトiPS細胞由来ドーパミン神経細胞の移植によって、パーキンソン病治療が可能となることを示唆する研究を京都大学が発表しています。(2012.2.21)
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主な脳内神経伝達物質.
1.ドーパミン
人間の脳において、ほかの動物より特別に多量分泌され、脳を覚せいさせ、快感を誘い、創造性を発揮させる最重要な神経伝達物質です。
脳内に広く分布していて攻撃性・創造性・統合失調症・パーキンソン病に深く関与しています。
快感と陶酔感を与えるドーパミンがシナプスに過剰に放出されると統合失調症に特有の症状の幻聴・幻覚・誇大妄想などが現われます。さらに、持続的にギャンブルを繰り返す病的賭博や病的性欲亢進(リビドー亢進)などの衝動制御障害を生じることもあります。
反対に、シナプスにドーパミンが不足すると顔の表情がなくなり、自分の意思で自由な筋肉運動ができなくなります。そして手や足が震えて、前かがみになって足を引きずるようにして歩くパーキンソン病やパーキンソン症候群のような症状が出現します。
また、ドーパミンは、プロラクチン(授乳、不妊症)の分泌量を下げる働きも持っています。
2.ノルアドレナリン
「怒りのホルモン」と呼ばれるノルアドレナリンは脳内に広く分布しています。うつ・幸福感・不安など情動に深く関与して、目覚めや集中力、積極性を養ったり、痛みをとる働きをします。
シナプスにノルアドレナリンが過剰になると興奮状態が続き、ソワソワして落ちつきがなくなり、不安でいても立ってもいられないという、そう病の症状が現われます。さらに、そう状態では睡眠時間が減り、行動が活発、乱暴となり、他人を攻撃したり怒りっぽくなります。また、性欲が亢進して見境のない性行動(リビドー亢進)に走ります。これは本人が傷つくばかりでなく、まわりにも迷惑をかけます。
反対にシナプスにノルアドレナリンの放出が少ないと強い悲しみや失望感のために喜びがほとんど感じられず、意欲が低下し、あらゆることに興味や関心がなくなってしまう、うつ病となります。
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3.セロトニン
ドーパミンとノルアドレナリンの舵取りホルモンと呼ばれるセロトニンは脳内に広く分布していて、覚せい・睡眠などの生体リズムや情動に深く関与しています。そしてシナプスにセロトニンの量が多すぎると脳が興奮しすぎて(そう状態)平常ではいられなくなります。
逆にセロトニンがシナプスに不足すると食欲や性欲は亢進するが、気分は低下(うつ状態)することが知られています。
また、突然心臓がドキドキし、息がつまりそうになり、冷や汗をかき、全身に震えがくるような症状、あるいは原因がないのにいきなり激しい不安感に見舞われる発作、さらに発作時以外でも強い恐怖感に襲われるような意識の現象、などを引き起こすパニック症候群も脳内セロトニンの不足から現われる病状と考えられています。
さらに、歯に根本的な原因がないのにもかかわらず、歯に痛みを感じる難冶性歯痛は”非歯原性歯痛”とも呼ばれ注目され始めていますが、これもセロトニンとノルアドレナリンが何らかの原因で減少した場合に痛みが出ることがある、といわれています。セロトニンとノルアドレナリンには痛みを調節する作用があり、これらの物質を増やす抗うつ薬の治療効果が期待されています。
4.アセチルコリン
アセチルコリンは記憶に関与していて、アルツハイマー病の治療薬としても注目を集めています。アセチルコリンがシナプスを渡り、レセプターに結合すると覚せい・学習・記憶などの脳の働きが強まります。
アルツハイマー病のヒトの脳を調べると、大脳皮質でアセチルコリンの濃度がかなり低いことが確認されています。大脳皮質は高度な思考や判断を担っています。この場所で記憶・学習・認識に関わるアセチルコリンが不足すれば、物忘れや新しいことが覚えられない、さらに自分が誰だかも認識できないといった深刻なアルツハイマー病の症状が現われます。
しかし、アセチルコリンの濃度が過剰になると、アセチルコリン神経の興奮が高まり、この興奮が視床→運動野→脊髄→筋肉と伝わる結果、パーキンソン病に特有の手足の震えやぎこちない体の動きが現われます。
また、アセチルコリンを神経伝達物質としている神経をコリン作動性神経と呼びますが、ムスカリン性アセチルコリン受容体(ベニテングタに含まれる物質)にアセチルコリンが結合すると、ムスカリン様作用の血圧降下や心拍数低下、気管支収縮、縮瞳などが起こります。
しかし、ベラドンナ(Atropa bella-donnna)の含有するアトロピンはムスカリン性受容体を遮断します。また、
ニコチン性受容体にタバコに含まれるニコチンが結合するとニコチンはアセチルコリンと同様の働きをします。
ただ、アセチルコリンはムスカリン様作用は強いがニコチン様作用は弱いため通常はムスカリン様作用のみが見られる、とのことです。
[コリン作動性神経]
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5.ギャバ(GABA:ガンマーアミノ酪酸)
ギャバはアミノ酸の一つで、主に抑制性の神経伝達物質として機能しています。
ギャバを放出するギャバ神経は脳全体に広がっていて、脳のなだめ役ともいってよく、神経伝達を抑制するブレーキの役割をしています。
ギャバの量が脳内に増加すると、鎮静、抗けいれん、抗不安作用が亢進します。
ところで、麻薬は、ギャバ神経の麻薬レセプターに結合して、ドーパミンの放出にブレーキをかけているギャバ神経を抑制する(アヘンやヘロイン、モルヒネ、コデインなど)ことにより、間接的に A10 神経の過剰活動(過剰ドーパミン放出)を促す物質です。
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脳内神経伝達物質のバランス
脳内で神経伝達物質のバランスがとれていればヒトは平常心を維持することができます。
しかし、バランスが崩れると心の病が発症します。.
ヒトの心の病を治すには、崩れたバランスを取り戻すような脳内神経伝達物質の量を、多くしたり少なくしたりすればよいのですが・・・・。
向精神薬や覚せい剤は一般にこれらの脳内神経伝達物質と部分的に類似した構造をもっています。そして血液-脳関門(B.B.B.)を通過して脳内神経伝達物質をかく乱するのです。
薬物使用によって一時的に得られる多幸感や快感をまた得ようとするため(精神的渇望)、または薬物投与を中断することによって生じる苦痛からのがれようとするため(肉体的離脱症状)、薬物を欲するようになる状態を「依存」といいます。
さらに依存性のために、その薬物の服用をし続けて、健康がおかされる状態を「中毒」といいます。.
ところで、脳内神経伝達物質のバランスが崩れやすいヒトは、”勤勉”、”まじめ”、”努力家”に多いといわれています。”あわてず”、”あせらず”、”のんびり”と手抜きをしながらゆとりのある生活をしましょう。
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花野井薬局プライベートノート「脳内神経伝達物質」で詳しく紹介しております。
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