Ⅱ) リン (P)
リン(Phosphorus)は体重の約1%を占め、500g~800g人体に含まれています。
リンは ①骨や歯をつくるばかりでなく、②ATPとして高エネルギーリン酸結合を構成したり、③リンと脂質が結合したリン脂質は細胞膜をつくります。さらに、④リンは遺伝情報などを伝える核酸の材料としても欠かせません。
① 体内にある約8割がリン酸カルシウム[Ca3(PO4)2]の形で、カルシウムやマグネシウムとともに丈夫な骨や歯をつくります。
Ca:カルシウム Mg:マグネシウム P:リン
② リンはエネルギー代謝にATP(Adenosine triphosphate)として高エネルギーリン酸結合を構築します。そして、ATPはADPに分解されるとき大きな自由エネルギーを放出します。
ATP + H2O ⇔ ADP + Pi(無機リン酸)+E
ATP:アデノシン三リン酸
ADP:アデノシン二リン酸
E(標準自由エネルギー変化):⊿G。,=-7.3 kcal/mol
[ 解糖系・TCAサイクルと三大栄養素]
細胞
[エネルギー発生メカニズム]
③ リンと脂質が結合したリン脂質は細胞膜を構成します。細胞膜は、リン(P)を含む親水性の頭部に、一方には疎水性の反応性に富んだ不飽和脂肪酸1本と、もう一方にはこれも疎水性の安定な飽和脂肪酸1本が尾部に付いています。
[細胞膜]
また、リンは神経細胞膜にも含まれていることから神経機能にも関与しています。
④ リンは核酸(Nucleic acid)の構成成分です。
核酸にはDNA(Deoxyribonucleic acid)とRNA(Ribonucleic acid)とがあります。
DNAは、染色体(ヒストンたんぱく質+DNA)を構築し、遺伝情報を伝えたり、たんぱく合成の際にはアミノ酸の配列順序(たんぱく質の構造)を規定します。
一方のRNAは、細胞質や核の仁の中にあり、染色体上のDNAの情報を写し取ったり(m-RNA)、アミノ酸を運搬したり(t-RNA)、たんぱく合成の工場(r-RNA)となったりします。
そして、DNAの情報をRNAが転写(Transcription)、翻訳(Translasion)してアミノ酸を組み立てて、特定の新しいたんぱく質をつくるのです。
① | DNAの一部(遺伝子部分)の結合がはずれ、二重らせんがほどける。 |
② | 一方のDNA鎖にRNAのリボヌクレオチドが相補的に結合し、 m-RNAが合成される。 (転写) |
③ | m-RNAが核膜孔を抜けて細胞質に移動し、r-RNAに付着する。 |
④ | 細胞質中のt-RNAがそれぞれ特定の活性アミノ酸と結合し、r-RNAへと移動する。 |
⑤ | r-RNAがm-RNA上を動くとき、m-RNAの情報(暗号:コドン)に対応した活性アミノ酸をもつそれぞれのt-RNAが、m-RNAの端から順にそれぞれの活性アミノ酸を連結させる。 (翻訳) |
⑥ | r-RNAの中の連結した活性アミノ酸は停止の命令がでるまで結合し続ける。できあがったポリペプチド鎖がr-RNAから離れ、たんぱく質ができる。 |
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核酸(DNA,RNA)は遺伝やたんぱく合成にかかわり、生命活動の基本を担い、生命体の誕生から成長、老化、死までを支配し、その生命体が生存するための必要かつ最も重要な物質です。
A:アデニン、G:グアニン、C:シトシン、T:チミン P:リン
(---:水素結合)
[核酸(DNA)の構造の一部(模式図)]
RNA | DNA | |
リ ン 酸 | H3PO4 | H3PO4 |
プリン塩基 | アデニン(A)グアニン(G) | アデニン(A)グアニン(G) |
ピリミジン塩基 | シトシン(C)ウラシル(U) | シトシン(C)チミン(T) |
五 炭 糖 | リボース | デオキシリボース |
[核酸の構成成分]
◎過剰
副甲状腺機能亢進、骨量減少(リンに対してカルシウムの比率が低いとき) など
◎欠乏
骨軟化症、骨粗しょう症、関節炎、筋力低下 など
◎リンを多く含む食品
マグロ、レバー、ハム、など
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