ミネラルのチョコット知識⑤
ナトリウム、カリウム
Ⅳ) ナトリウム(Na)とカリウム(K)
ナトリウム(Sodium)は成人体内には約100g(体重の0.1%強)存在し、その3分の1は骨に、残りの多くは細胞外液(体液、血液)にNacl、NaHCO3、Na2HPO4として、また、細胞内液にも少量含まれています。
カリウム(Potassium)は体内には成人で100~150gほど(体重1kgあたり約2g)存在し、その98%は細胞内液にK2HPO4、K-Proteinとして含まれています。
ナトリウムとカリウムはともに細胞の機能を支える重要な働きを担っているため、生命活動の維持には必須のミネラルです。
NaイオンとKイオンの働き
① 浸透圧の調整
Naイオンは主として細胞外の、Kイオンは細胞内の浸透圧を調整します。
体を構成する細胞の内液にはKイオンが高濃度含まれ、細胞の外液にはおもにNaイオンが高濃度に含まれています。
細胞内外のKイオンやNaイオンの濃度はナトリウムカリウムポンプにより一定に保たれ、さらに、ナトリウムカリウムポンプはNa+/K+-ATPase(酵素)によって活性化されます。
Na+/K+-ATPaseは細胞内にNaイオンが増え、細胞外のKイオンが増加すると、ナトリウムカリウムポンプの調節機能を活性化して、細胞外からKイオン(2個)を取り込むと同時に、細胞内からNaイオン(3個)を細胞外に汲み出して濃度を一定に保ちます。
細胞内のNaイオンやKイオンなどの濃度が高くなれば、細胞内の濃度を薄めようと細胞外から水が侵入し、細胞は膨らみ、最終的には破裂してしまいます。また、細胞外の濃度が高くなれば、細胞内から細胞外へ水が抜けていき、細胞はしぼんでしまいます。そのため、細胞が正常に働くには細胞内外の濃度を安定させ、浸透圧を一定に保つ必要があります。
NaイオンとKイオンは細胞内外の浸透圧を調整し、細胞の大きさを正常な細胞形状に保持しています。
② 血圧の調整
体液のNaイオン濃度が高くなると、その濃度を薄めようとして体液は水を取り込みます。そして、体液の量が増え、血管を圧迫すると血圧は上昇します。
Kイオンは腎臓でのNaイオンの再吸収を抑制し、尿中へのNaイオンの排泄量を増加させるので、血圧を降下させる働きがあります。
③ 神経伝達
NaイオンとKイオンはCaイオンとともに神経伝達にも関与しています。
神経細胞膜にはNaイオンだけを通過させるNaチャンネルがあります。
このNaチャンネルは通常は閉じていますが刺激されると開く性質を持っています。そして、このNaチャンネルが開くと細胞外にある大量のNaイオンが神経細胞内に流れ込み、その場所だけプラス、マイナスの電位が逆転し、パルス波が発生します。
このパルス波が神経細胞の軸索の表面に沿ってつぎつぎと発生していくのが活動電位(インパルス)です。
活動電位が神経細胞の軸索シナプス終末に届くと、シナプス終末にあるCaチャンネルが開きCaイオンが流入します。Caイオンがシナプス終末に流入すると同時にシナプス終末から神経伝達物質が放出されます。
神経伝達物質が別の神経細胞の樹状突起にある受容体(レセプター)に結合すると樹状突起にあるNaチャンネルが開きます。
神経細胞内にNaイオンが流入し、再び活動電位が発生します。
そして、神経細胞の軸索の表面を活動電位が衰えることなく、迅速かつ正確に伝達されていきます。
[神経細胞情報伝達]
フグ毒はナトリウムチャンネルにフタをするように働き、Naイオンが細胞内に入らないようにします。これにより、活動電位はそこで断ち切られ、神経端末には情報を伝えることができません。そのため、体の麻痺が起こり、呼吸麻痺から死に至ることもあります。
*フグ毒
フグの毒は卵巣(マコ)と肝臓(キモ)にとくに多く、中には精巣(シラコ)や皮、肉にも毒のある種類があります。
フグ毒はテトロドトキシン(tetrodotoxin,TTX)といわれ、熱にも強く、100℃30分煮沸しても20%程度しか破壊されません。また日光にも安定で日干ししても毒性は残ります。
潜伏期は30分~5時間です。テトロドトキシンは神経毒のため、症状としては舌や唇がしびれ、手足が麻痺し、さらには感覚の麻痺から、最終的には呼吸麻痺で死に至ります。短時間で中毒症状の起こったものほど重症ですが、8時間生命がもてば回復の見込みがあるといわれています。
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フグの毒化機構
フグ毒は外部起源です。
フグは自分でテトロドトキシンをつくるのではなく、海水中の微生物のつくったテトロドトキシンを餌などをつうじて、フグが自身の体内に蓄積したものです。
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トリカブトの毒もフグ毒と同じ神経毒です。この毒はNaチャンネルを開きっぱなしにするので、大量のNaイオンが細胞内に流入し、活動電位を遮断します。これにより、情報伝達も不可能となります。
*トリカブトの毒
トリカブト(Aconitum japonicum)にはアコニチン(aconitine)という猛毒のアルカロイドが含まれています。アコニチンを摂取後、症状はかなり早く現われます。経過も速く、唇や舌がひりひりして、のどや胃も熱くなり、よだれが出てきて吐き気が起こります。さらには手足が麻痺し、物が飲み込めなくなります。脈もだんだんと遅く不規則(不整脈)になり、顔面蒼白。3~4時間で意識不明となり、呼吸困難で死に至ります。
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毒物 |
= | Poison |
毒素 |
= | Toxin |
毒液 |
= | Venom |
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④ 筋肉の収縮
筋収縮のメカニズム
(運動神経の興奮を筋肉に伝える部分では、アセチルコリンが伝達物質)
軸索の端末に刺激が到達 |
↓ |
端末のシナップス小胞からアセチルコリンが放出 |
↓ |
アセチルコリンが筋細胞表面のアセチルコリンレセプターに結合 |
↓ |
レセプター周囲のNaチャンネルが開口 ↓ 外液からNaイオンが流入 |
↓ |
筋活動電位が発生 |
↓ |
筋小胞体のCaチャンネルを開口 |
↓ |
筋小胞体からCaイオンが筋細胞質へ放出 |
↓ |
Caイオンが アクチンとミオシンの結合を阻害しているトロポミオシンを不活化 ↓ ATPを使ってアクチンフィラメントが ミオシンフィラメントの間に滑り込む |
↓ |
アクトミオシンフィラメント生成(筋収縮) |
伝達物質:アセチルコリン 受容体:アセチルコリンレセプター
神経伝達物質のアセチルコリン(Ach:Acetylcholine)が神経端末と筋細胞の間にあるシナップス間隙に放出され、筋細胞表面のAchレセプターに結合すると、レセプター周囲のNaイオンチャンネルが開きます。
すると、筋細胞外から筋細胞内にNaイオンが流れ込みます。このとき、筋活動電位が発生し、この筋活動電位は筋小胞体のCaイオンチャンネルを開口し、Caイオンを筋細胞質に放出します。
筋細胞質に放出されたCaイオンはアクチンとミオシンの結合を阻害しているトロポミオシンを不活化します。
Caイオンによってトロポミオシンから解放されたアクチンフィラメントはATP(Adenosine triphosphate)を使って、ミオシンフィラメントに滑り込む(アクトミオシンフィラメント生成)と筋肉は収縮します。
そして、神経伝達の働きを終えたAchはコリンエステラーゼ(酵素)によって速やかに分解されると、筋弛緩が起こり、筋肉は収縮前の状態に戻ります。
神経毒のサリンはこのコリンエステラーゼの働きを阻害するため、Achがシナップスに過剰に溜まります。すると、筋肉は収縮しっぱなし(筋硬直)となり、呼吸困難や全身けいれんを引き起こし、最悪の場合は死に至ります。
⑤ その他
NaイオンとKイオンには、体液のpHがアルカリ性に傾きやすいときや、酸性に向かったときに、それらを調節してpHを一定に保つ働きがあります。ー酸塩基平衡の維持
NaイオンはCaイオンなどのミネラルやたんぱく質が血液に溶けるのを助け、その吸収を促進します。また、Naイオンは胃酸や腸の消化液の分泌を促し、食物の消化吸収を助けます。
Kイオンはエネルギー代謝や膜輸送などにも関与しています。
◎Naの過剰
浮腫、高血圧 など
◎Na不足
倦怠感
大量に汗をかいたとき、激しい運動をしたとき、下痢が続いたとき など
◎Naを多く含む食品
◎Kの過剰
高カリウム血症(不整脈、手足のしびれ、筋力低下、吐き気など) など
◎Kの不足
高血圧、筋肉のけいれん、無気力、疲労感 など
◎Kを多く含む食品
レモン、かぼちゃ、トマト など
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