主な病原微生物
46.黄色ブドウ球菌
主な病原微生物
♯主な細菌
[G(+):グラム陽性 G(ー):グラム陰性]
胞子(芽胞)
G(+)球菌
46.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
46.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
[特徴]
ブドウ球菌は直径 1µm程度の球菌でブドウの房状に不規則な菌塊をつくって配列しています。自然界に広く分布し、ヒトでは皮膚、鼻咽頭、腸管に常在しています。
ブドウ球菌には多くの種がありますが、コアグラーゼcoaglaseをもつ(coaglase陽性)菌ともたない(coaglase陰性)菌とに大別されます。
黄色ブドウ球菌はブドウ球菌のなかでも最も病原性が強く、食塩耐性があり、乾燥、熱にも比較的強い。
健常者でも保菌していることが多く、常在菌の1つですが、ひとたび感染が成立すると、菌の毒素、菌体外酵素により種々の病態を引き起こします。いわば、黄色ブドウ球菌は、化膿性炎症の重要な原因菌でもあり、エンテロトキシン(Enterotoxin)を産生して毒素型食中毒の原因菌にもなります。
◎化膿性炎症
黄色ブドウ球菌は化膿を伴う炎症を起こす細菌の代表で、化膿には菌が発生する毒素や病原因子が関与しています。
*コアグラーゼ
血しょう凝固を起こすたんぱく質で、この凝固した血しょうで菌体を包むことによって好中球などの食作用に抵抗性を示します。
*ロイコシジン(leukocidin)
白血球を破壊する毒素。
*ヘモリジン(hemolysin)
赤血球を破壊する毒素。
*スタフィロキナーゼ(staphylokinase)
血中のプラスミノーゲンをプラスミンに変え、フィブリンを溶解させる酵素。
伝染性膿痂疹…黄色ブドウ球菌が皮膚の浅層に感染し、水疱あるいは膿疱をつくる皮膚の化膿性疾患。
中耳炎
膿瘍
肺化脳症など
◎食中毒
黄色ブドウ球菌は、黄色ブドウ球菌の産生するエンテロトキシンによる毒素型食中毒を引き起こします。
*エンテロトキシン(enterotoxin)腸管毒。
100℃、30分の過熱にも耐える耐熱性毒素です。
[黄色ブドウ球菌食中毒の起こり方]
黄色ブドウ球菌食中毒は、料理する人の手の切り傷などから黄色ブドウ球菌が混入し、増殖した結果、産生されたエンテロトキシンにより発生します。
潜伏期間は30分~6時間と短く、激しい嘔吐、急激な腹痛、下痢があるも、発熱はほとんどないのが特徴です。
[黄色ブドウ球菌食中毒の特徴]
◎表皮剥脱性皮膚炎
黄色ブドウ球菌は全身の皮膚が侵される黄色ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群を起こすことがあります。これは、
黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥脱性毒素による皮膚炎で、水疱やびらんを生じます。
*表皮剝脱毒素(exforiative toxin)
黄色ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphyloccocal scalded skin syndrome)の原因毒素。
◎毒素性ショック症候群
黄色ブドウ球菌は、黄色ブドウ球菌が産生する毒素性ショック症候群毒素による発熱、全身の発疹、低血圧、ショック、肝不全、腎不全などをきたす黄色ブドウ球菌性毒素性ショック症候群を引き起こすことがあります。
*毒素性ショック症候群毒素
毒素性ショック症候群(toxic shock syndrome)の原因毒素。
[治療]
黄色ブドウ球菌が感受性を示す抗生剤を用います。しかし、近年、
多剤耐性黄色ブドウ球菌が臨床材料から多く分離されています。
この菌は院内感染の原因菌として重要、かつ、治療上とくに問題視されています。
この黄色ブドウ球菌はメチシリンなどのβラクタム系抗生物質やアミノグリコシド系、テトラサイクリン系、マクロライド系抗生物質にも耐性を示しメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA Methicillin Resistant Staphylococcus aureus)と呼ばれています。
MRSA感染症が問題となるのは易感染性宿主の場合です。
易感染性宿主には、表在性感染としては皮膚感染症が、深在性感染としては肺炎・肺化膿症、中耳炎、腸炎、敗血症などがあります。
MRSAに対しては、バンコマイシン(グリコペプチド系)、テイコプラニン(グリコペプチド系)、アルベカシン(アミノグリコシド系)が使用されます。
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