主な病原微生物
61.大腸菌
主な病原微生物
♯主な細菌
G(ー)桿菌
Ⅰ.腸内細菌科(Enterobacteriaceae)
腸内細菌科の細菌は、ヒトや動物の腸管内、土壌、水などに広く分布している
無芽胞通性嫌気性(好気的条件下でも嫌気的条件下でも発育)グラム陰性桿菌
61.大腸菌(Escherichia coli)
[特徴]
Escherichia属の大腸菌はヒトや動物の腸管内の常在菌です。
大きさは0.4~0.7*1.0~4.0μmの桿菌で、鞭毛をもち、活発に運動します。
大腸菌はほかの腸内細菌のバランスをとるとともにビタミン類を産生して宿主に供給します。
[大腸菌のイメージ図]
このなかで、新たな定着因子(attaching and effacing adherence )や毒素、細胞内侵入因子などの遺伝子を獲得して下痢を起こすようになった大腸菌は下痢原性大腸菌といわれます。
①下痢原性大腸菌と
②腸管以外の部位に感染症を起こす大腸菌(髄膜炎や尿路感染症など)を含めて、
病原大腸菌と呼んでいます。
ヒトでは病原大腸菌と非病原大腸菌は大便に常在している細菌の約1%を占めています。
①下痢原性大腸菌
下痢原性大腸菌による食中毒は 、下痢原性大腸菌の濃厚感染を受けた飲食物(生菌数1万個以上)を摂食し、さらに、腸管内でその細菌がおびただしく増殖する(生菌数10万個以上)ことにより発症する感染型食中毒です。
ただ、腸管出血性大腸菌O157やO111、O26などは、この下痢原性大腸菌に属してはいますが、これらの菌は、生菌数が100個前後の微量でも発病し、毒素(ベロトキシン)も産生する、という特徴があります。
下痢原性大腸菌は病型と病原因子から、つぎの5つに分類されています。
i)腸管病原性大腸菌(Enteropathogenic E. coli:EPEC)
この菌は乳幼児下痢症を起こすので重要視されています。
成人に対しては急性胃腸炎を起こします。
汚染源は患者や保菌者の大便または家畜の排泄物などで、この菌の増殖した飲食物を摂食することによって発症します。
潜伏期は8~30時間で、症状はサルモネラ食中毒に似ていますが、一般にサルモネラの症状より軽いようです。
強固な接着で腸管粘膜上皮に付着して上皮を傷つけることにより水様性下痢や発熱、嘔吐を起こします。
ⅱ)腸管細胞侵入性大腸菌(Enteroinvasive E. coli:EIEC)
この菌は分類上は大腸菌ですが、むしろ、経口伝染病の赤痢と同じ病状を呈します。すなわち、
急性大腸炎を起こし、発熱、腹痛、しぶり腹(裏急後重)などの症状があり、大便には粘液だけでなく膿や血液が混じります。
この菌は赤痢菌(Shigella dysenteriae)と同様に伝染性があります。
ⅲ)腸管毒素原性大腸菌(Enterotoxigenic E. coli:ETEC) この菌はヒトの腸管内で増殖するとエンテロトキシン(コレラ菌のつくるコレラ毒素と類似)を産生します。
この菌による食中毒では水様便の下痢を起こしますが、発熱はなく、症状は一般に軽いとのことです。
汚染源や汚染経路は腸管病原性大腸菌の場合と同様です。
熱帯や亜熱帯地方に旅行したときなど「旅行者下痢(traveler’s diarrhea)」にかかることがありますが、その多くはこの菌によるものとみられます。
ⅳ)腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic E. coli:EHEC)
腸管出血性大腸菌食中毒はこの菌の産生する毒素ベロトキシン(Verotoxin =志賀毒素:志賀赤痢菌のつくる毒素)によるもので、下痢、腹痛、粘血便、発熱のほか出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)、急性脳症を併発します。
ことに、免疫の低下した高齢者や抵抗力の弱い乳幼児が感染すると致命的となることがあります。
腸管出血性大腸菌O157やO111、O26などはこの下痢原性大腸菌に属し、腸の中で増殖、粘膜に作用して出血性の下痢や激しい腹痛を起こします。(出血性大腸炎)
腸管出血性大腸菌O157やO111、O26などの最大の特徴は、通常、感染型食中毒は腸内に10万個以上の生菌数が存在しないと発病しないのに対し、これらの菌は生菌数が100個前後の微量で発病するということです。
微量感染という点では赤痢や腸チフス、パラチフス、コレラなどの経口伝染病によく似ています。また、
腸管出血性大腸菌O157やO111、O26などの潜伏期間は摂食した菌量にもよりますが、一般に4日~8日とされています。
放っておくと、この菌の産生するベロトキシンのために溶血性尿毒症症候群や腎不全、急性脳症を引き起こして死に至ることもあります。
致命率[(死者数/患者数)×100]は2~3%にも達します。
腸管出血性大腸菌O157やO111、O26などの汚染源は井戸水や生肉の可能性が高いといわれています。 下痢原性大腸菌のなかでも最も悪質な大腸菌です。
腸管出血性大腸菌O157やO111、O26などに対する予防としては、調理前、調理中、調理後の器具の熱湯消毒と飲食物の60~70℃の加熱、または煮沸があげられます。
v)腸管凝集粘着性大腸菌(Enteroaggregative E. coli:EAggEC)
熱帯や亜熱帯の開発途上国において、2週間以上の長期にわたって続く乳幼児下痢症から多く検出されています。
②腸管外感染症
膀胱炎や腎盂炎どの尿路感染症の約80%が大腸菌によるものです。そのほか
肺炎や胆道感染症、腹部感染症(腹膜炎、虫垂炎)、敗血症、新生児の髄膜炎などさまざまな炎症の原因にもなります。
[治療]
抗菌薬を使用する場合はセフェム系抗菌薬などの広域スペクトルを有するものを用います。しかし
薬剤耐性菌が増加しているので、感受性試験を行なって適した抗菌薬に変更することが必要です。とくに、
病原性の強い腸管出血性大腸菌感染症の場合、二次感染、院内感染を起こすおそれがあります。
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