”免疫”のチョコット知識②
抗体産出メカニズム、腸管免疫、気道免疫
.
生体防御反応には
①自然免疫(innate immunity)と
②獲得免疫(acquired immunity)とがあり、
これらはお互いに協力連携して、侵入してきた異物を破壊します。
抗原として細菌(Bacteria)が生体に侵入した場合を想定しましょう。
*[抗体産出メカニズム]
.
①自然免疫 |
細菌が体内に侵入すると、侵入場所には好中球がまっ先に駆けつけ集合し、細菌の貪食を始め、そして25個程度の細菌を食べた後、破裂して細菌ともども死んでしまいます。
(好中球と細菌の死骸=膿、眼脂、耳漏、痰など). |
②自然免疫 |
好中球と同様の働きをするものに単球のマクロファージがありますが、好中球よりも大きく「大食細胞」とも呼ばれ、アメーバのように移動しながら触手を伸ばし、細菌などを包みこんで消化してしまいます。
1個のマクロファージは100個程度の細菌を食します。 さらに、マクロファージは細菌を貪食しながら、間脳視床下部体温中枢を刺激(サイトカインの一種インターロイキン1による)して体温を上昇させて、病原菌の増殖を抑え、白血球の働きを活発にする、と同時に、その細菌(抗原)の情報をリンパ球成分のT細胞(ヘルパーT細胞)に伝達(モノカインによる)するという重要な役割(抗原提示)も担っています。. 単球の樹状細胞も細菌に対して食作用、飲作用をしながら、その細菌(抗原)の情報を抗原提示(主にインターロイキン6)します。
|
③獲得免疫 | 樹状細胞から情報を得たヘルパーT細胞は細菌が「自己」か「非自己」かを見分け、
「非自己」と認識した場合は、B細胞に抗体産出の指令(リンフォカインによる)を発します。. T細胞には抗体産出を促進するヘルヘパーT細胞、逆に抑制する制御性T細胞などがあり、免疫系の抗体産出の促進と制御の中心となっています。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)はこのヘルパーT細胞を破壊します。→後天性免疫不全症候群(AIDS)] . |
④獲得免疫 | ヘルパ-T細胞から抗体産出の指令を受けたB細胞は分化・成熟してプラズマ細胞(形質球)となります。
(通常、形質球の白血球百分比は0%). |
⑤獲得免疫 | プラズマ細胞は、特定の抗原(ここでは特定の細菌)に対応する特定の抗体(免疫グロブリン IgG)を血清中に大量に産出し、この抗体が細菌を攻撃(抗原抗体反応)して死滅させてしまうのです。.
この時点で制御性T細胞が働いて抗体産出を中止させ、生体は細菌侵入前の状態に戻ります。 . |
ここで重要なことを2点あげておきます。
1点目は侵入してくるあらゆる抗原(無限の物質)に対して生体は、それにおのおの「専門」に対応できるB細胞をあらかじめ用意してあり(スプライシング:抗体グロブリン分子の多様性)、特定の侵入抗原に対する特定の抗体を速やかにつくるということ。
この抗体のスプライシングによる多様性を発見した利根川進博士は“ノーベル生理学医学賞”を受賞しました。
スプライシング:DNAから転写されたmRNAが不要な部分(イントロン)を除外した遺伝子(エキソン)で再構成を起こすこと。
これにより、特定の抗原に対応する数十万種類ともいわれる抗体をつくることができます。
2点目は、生体は一度侵入した異物(抗原)を「記憶」(メモリーB細胞)していて同じ異物が再び侵入したとき、その異物に対応するメモリーB細胞は一度目よりすばやく大量の抗体をつくり、正確かつ迅速にその異物を撃退するということ。
実はこの抗体が、「体液性免疫」と呼ばれるものです。
これに対して、マクロファージやキラーT細胞が直接異物に作用する免疫反応は「細胞性免疫」といいます。
生体内に侵入する外敵にはさまざまな種類があります。 万一、これらの外敵が防衛システムを突破して生体内に侵入した場合には、攻撃システムの免疫担当細胞(細胞性免疫)と抗体(体液性免疫)との見事な連携プレーによって発症を未然に防ぎます。
もちろん、侵入外敵が勝てば生体は発病するし、免疫が優れば予防にもなり治癒もします。
この免疫(抵抗力)のメカニズムを応用したのが”ワクチン”です。
従来のワクチンはウイルス本体を培養し、毒性をなくしたり、毒性を弱めたりした抗原たんぱく質を直接接種することにより免疫をつくり、新しく侵入するウイルスを攻撃・中和するものです。
これに対して
mRNAワクチンは、新型コロナウイルスの一部のみ(スパイク状たんぱく質)をつくる核酸mRNAを投与するので、細胞質内で抗原たんぱく質に翻訳されて、侵入する新型コロナウイルスを攻撃・撃破する免疫が誘導されます。
また、mRNAワクチンは体液性免疫(抗体)ばかりでなく、細胞性免疫(キラーT細胞など)をも高めると考えられています。
.
[生体内]
mRNA(注射)
⇓
新型コロナウイルスのスパイク状たんぱく質をつくる
(抗原となる)
⇓
新型コロナウイルスワクチンができる
(抗体産生)
⇓
同じ新型コロナウイルス侵入
⇓
攻撃破壊。
[mRNAワクチンの特徴]
①.病原体を体内に入れるわけではないため安全性が高い。
②.抗体以外の免疫の働きも活性化する。
③.開発・製造のために病原体を増やす必要がないので、短期間で開発できるメリットがある。
④.感染症だけでなく、がんや脳梗塞などさまざまな病気の治療に応用できる。
*[免疫(ワクチン)の具体例]
① | インフルエンザ菌b型ワクチン(Hibワクチン=不活化ワクチン)やジフテリア菌(D:トキソイド)、百日咳菌(P)、破傷風菌(T:トキソイド)に対するDPTワクチン。
日本脳炎、B型肝炎、狂犬病、ヒトパピローマウイルス、コレラに対するワクチン(いずれも不活化ワクチン)など。 これらは外敵の侵入に備えて前もって抗体をつくっておくものです。 |
② | マムシやハブに咬まれた時の抗毒素血清療法。
(ウマ血清蛋白に対する血清病がしばしば現われます。) |
③ | 一度罹患すれば終生免疫を獲得するといわれている麻疹(はしか=生ワクチン)や風疹(三日はしか=生ワクチン)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ=生ワクチン)など。(MRワクチン)
(この“二度なし現象”の説は現在否定されつつあります。) 結核菌に対するBCG予防接種(生ワクチン=弱毒生菌ワクチン)や小児麻痺に対するポリオ生ワクチンなど。 これらは、毒性を弱めた感染力のある生きた病原体を用いてメモリーB細胞を残します。 |
④ | 輸血や臓器移植時の拒絶反応
角膜移植時、精液(精子)、胎児などには拒絶反応なし。輸血や骨髄移植も条件が適合すれば一部可ー免疫寛容)。 |
⑤ | 自己抗原(自分の体細胞や組織)に対しては抗体や感作Tリンパ球が産生されないのが原則ですが、これが時として破られることがあります。
代表的なものが全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチ、橋本病(甲状腺機能障害)、重症筋無力症などの自己免疫疾患 。 |
⑥ | 現在盛んなバイオテクノロジー(Biotechnology)によるエイズ(AIDS)や癌(Carcinoma)への対策などなど。 |
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
結局 薬局 花野井薬局
生体の免疫システムには、血液中やリンパ液中の免疫細胞による全身免疫とは別に、消化管や気道など局所の粘膜上皮細胞においても、感染防御を行なう特殊な免疫系が発達しています。
外敵に対して、消化管では腸管免疫が、気道においては気道免疫が働いています。
腸管免疫
腸は食べ物だけでなく、それと一緒に病原菌やウイルスなどが常に入り込んでくる危険性のある場所で、体内で密接に外界と接する臓器の一つです。 そのため、
体内に侵入してくる外敵や再び入ってきた過去の侵入者を素早く撃退する免疫細胞が、栄養や水分を吸収する腸の壁の内側に密集しています。
腸での免疫機構の役割を果たしているのが小腸じゅう毛の間に存在するドーム型の「パイエル板」です。
パイエル板の表面には、腸内を漂うさまざまな細菌やウイルス、食べ物のかけらなどの「異物」を腸壁の内部に引き入れるための特殊な入り口をもったM細胞があります。
パイエル板の内側にあるリンパ濾胞内の、M細胞から異物を受け取ったマクロファージや樹状細胞は、ヘルパーT細胞に抗原の提示を行ないます。
抗原の提示を受けたヘルパーT細胞は抗原が自己か非自己かを見分け、「非自己」と認識した場合はB細胞を活性化し、形質細胞に転換させてIgA抗体を産出させます。
免疫細胞は腸で働くばかりでなく、血液を介して全身に運ばれ、「異物」の侵入からからだを守ります。
腸内細菌は「異物」にもかかわらず免疫細胞からの免疫系攻撃を回避し、逆に、免疫系を強化しています。これは、
免疫細胞の価値的判断により、危険な病原細菌は排除されるが安全な腸内細菌は排除されず、共生させるよう免疫系が作用(デンジャーセオリー)しているから、とのことです。
腸内細菌は免疫系を活性化させるばかりでなく、免疫力も増強させます。
その腸内細菌を増やし腸内細菌活動を高めるには、
第一に野菜類、豆類、果物類など植物性食品を摂ること。
第二に発酵食品を食べること。
第三は食物繊維やオリゴ糖を食すること、などです。
ところで、
食物繊維を多くとれば免疫力が上がってがんが予防でき、アレルギーも抑えられるといわれています。
腸内細菌の一種クロストリジウム属(偏性嫌気性グラム陽性桿菌)には破傷風菌やウェルシュ菌、ボツリヌス菌などの病原性をもつ有害な菌も属していますが、クロストリジウム属菌は「免疫細胞の暴走」と深くかかわっています。
免疫反応を抑制するTreg細胞(T regulatory cell)と呼ばれる新しい制御性T細胞が発見されました。
免疫細胞のなかには、「攻撃役」ばかりでなく、「ブレーキ役」も存在し、このTreg細胞が働くと、全身の各所で過剰に活性化し暴走している免疫細胞がなだめられ、アレルギーや自己免疫疾患が抑えられることがわかっています。
クロストリジウム属菌のなかでも酪酸菌、とくにクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum )は腸内の「食物繊維(フラクトオリゴ糖など)」を餌として食べ、「酪酸」を盛んに放出します。
クロストリジウム属菌が出した酪酸を腸壁内部の免疫細胞が受け取ると、免疫細胞はTreg細胞に変身します。
Treg細胞を体内でほどよく増やすことができれば、アレルギーや自己免疫疾患などを抑えることができると期待されています。
そのカギが「食物繊維」にあるといわれます。
気道免疫
気道粘膜も腸管と同様に外界と広く接触しているため、つねに病原微生物などの異物の侵入にさらされています。
気道粘膜の内部にはリンパ濾胞があり、上部は「粘膜から突出するような形」になっています。
リンパ濾胞の内部には樹状細胞やマクロファージ、T細胞、B細胞が集まっていて、病原微生物などの異物が侵入すれば、気道免疫反応が起こり、マクロファージによる非特異的な貪食作用(自然免疫)と、ヘルパーT細胞中心の獲得免疫が機能します。そして、
獲得免疫のB細胞は産生する抗原に特異的なIgA抗体を気道表面をおおう粘液中に分泌し、自然免疫との連携プレーによって異物の侵入を防ぎます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
-2-