“免疫”のチョコット知識⑦
免疫不全症
免疫不全症
免疫にかかわる細胞や分子の欠損または機能低下によって免疫が働けず、感染症を繰り返す病気は免疫不全症と呼ばれます。
免疫不全症には、先天的あるいは遺伝的に起こる原発性免疫不全症と、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのウイルス感染、抗悪性腫瘍薬、免疫抑制剤などによって起こる続発性免疫不全症があります。
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ここでは、HIVが起こす感染症についてチョコット考えてみます。
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HIV(Human immunodeficiency virus:ヒト免疫不全ウイルス)はマクロファージとヘルパーT細胞に感染して、進行性の、重症の免疫不全を引き起こすウイルスです。
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HIVは感染している人の血液、膣分泌液、精液、乳汁、唾液、涙、汗、便などに認められます。
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[模式図]
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エイズ(AIDS:Acquired Immunodeficiency Syndrome)はHIVの感染によって引き起こされる後天性免疫不全症候群です。.
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免疫は外部から侵入してくる異物(抗原)に対して、生体にとって有利に働く抗原抗体反応でした。
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ところが
HIVが免疫をつくるマクロファージとヘルパーT細胞に感染すると、
ステップ1:細胞表面への吸着、細胞内への侵入
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HIVに感染したマクロファージとヘルパーT細胞からはウイルス構造の たんぱく質とウイルス粒子がつくられます。
ステップ2:カプシド脱殻
ステップ3:ウイルス遺伝子やたんぱく質の生産
ステップ4:ウイルスの複製
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そして、
大量につくられ、成熟したHIVはマクロファージとヘルパーT細胞を破壊して細胞の表面から飛び出していきます。
ステップ5:細胞の破壊、ウイルス粒子放出
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これらのHIVは、新たなマクロファージとヘルパーT細胞に侵入して増殖を続け、マクロファージとヘルパーT細胞の免疫機能不全や免疫細胞の減少を引き起こします。
HIVに感染すると、2~4週間後にインフルエンザ様症状(発熱、咽頭痛、頭痛、全身倦怠感、リンパ節腫脹、筋肉痛など)が現われます。急性症状がみられるのは20~50%で残りは無症状です。
その後、HIVに対する免疫が誘導されてHIVの増殖が抑えられるので、血中HIVが一時的に減少するものの、ウイルスは完全に排除されることはありません。
感染者は長い期間無症状で経過します(無症候性キャリア)。
しかし、経過とともにHIVの増殖が免疫による抑制を上まわり、宿主細胞のヘルパーT細胞がしだいに減少し、免疫不全状態に陥ります。この病態をエイズと呼びます。
感染からエイズ発症までの期間は平均して約10年です。
エイズはHIVに感染している症候群です。
HIV感染によって引き起こされた高度な免疫不全により、日和見感染症や腫瘍、認知症などの二次的疾患を合併します。
エイズの段階にいたると、血中のHIVは増加し、ヘルパーT細胞は著明に減少します。全身症状(下痢、体重減少、発熱など)、日和見感染症(ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症、カンジダなどの真菌症、抗酸菌症など)、腫瘍(カポジ肉腫、リンパ腫など)、神経症状(脳症、認知症など)などを合併して複雑な病状を呈します。
感染には
①「性行為による感染」、
②「血液による感染」、
③「母子感染」がありますが、HIVが血液中で増殖しなければ感染は成立しません。
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①「性行為による感染」
セックスで感染するのは、精液や膣分泌液に含まれているHIVが尿道の粘膜や子宮の内膜を通って、その内側にある血管の中に入るからです。 皮膚にHIVが付着しても感染しないのは、粘膜はウイルスは通すが皮膚はウイルスを通さないからです。それでも、 ウイルスが粘膜を通るためには長時間の接触が必要です。
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②「血液による感染」
HIVを含んだ血液や血液製剤によって感染が成立するのは、HIVを直接血管の中に注入するからです。
また、麻薬の回し打ちも同じで、先に麻薬を打った人の血液に含まれるHIVが麻薬とともに血管の中に入ることにより感染します。
③「母子感染」
HIVに感染している母親から生まれてくる子供は、産道の中の血液や帝王切開のときに出る血液が体表の粘膜から吸収されたり、口から飲み込まれたりするなどの理由で HIV に感染することがあります。 確率としては、膣を通って生まれると10人中3人が感染し、帝王切開では10人中2人が感染するといわれています。
さらに、生まれたときにはHIVに感染していない子供も、HIVに感染している母親から母乳をもらうと、HIVに感染します。 感染している母親は、せっかく出ている母乳であってもそれを子供に飲ませることができなくなります。
[参考]
a.注射針の針刺し事故は感染しますか?
注射針が危ないのは構造が中空になっていて、そこに血液が含まれるからです。 その針先が刺さった時、HIVを含んだ血液が直接血管の中に入ってしまい感染を起こします。
b.血液製剤の粉末は安全ですか?
HIVは乾燥しても破壊されずに生き残ります。
c.血が出ている傷口は安全ですか?
出血している傷の上にHIVが付着しても血管から流れ出る血液がHIVを洗い流すので、HIVは血管の中に入ることができません。
d.ディープキスで感染しますか?
傷ができたとしても、流れ出る血液や唾液で流されるので、HIVは血管の中に入れません。
e.セックスでHIVに感染しますか?
① | HIVに感染している男性が膣の中で射精する場合HIVは精子とともに膣から卵管を通って腹腔内へと進み、子宮内膜(血管が豊富)や腹腔内の血管に入り感染します。 |
② | HIVに感染している男性が相手の直腸の中に射精する場合精液の中のHIVが直腸の粘膜下にある血管の中に入り感染します。 |
③ | HIVに感染している女性の膣の中にペニスを挿入する場合女性の膣分泌液が男性の尿道に入り、膣分泌液の中のHIVが尿道粘膜を通って血管の中に侵入して感染します。 月経中の時ほど、血液中のHIVが多いのでより感染しやすくなります。 |
④ | HIVに感染している人の直腸の中にペニスを挿入する場合、便や直腸の粘液、出血したときの血液に含まれるHIVが、尿道粘膜を通って血管の中に侵入して感染します。 |
f.女性は男性より感染しやすいですか?
確率で言えば、感染している男性と感染していない女性1000人がコンドームを使わないセックスをした場合、感染する女性は約10人です(ほぼ1%の確率)。 また、感染している女性と感染していない男性1000人がコンドームを使わないセックスをした場合、感染する男性は約1人です(ほぼ 0.1 %の確率)。
この理由は、男性が感染する場合は尿道に膣分泌液が入り、HIVが尿道粘膜を通過することが必要ですが、尿道に入る膣分泌液の量は少なく、射精や排尿によっても膣分泌液は体外に排出されます。 これに対して、女性が感染する場合は、膣内に射出された精液は積極的に体外に排出されることもなく、むしろ、精子の動きとともに膣から子宮内へと入ります。 つまり、男性に比べて女性の方がより多量の相手の体液と接触し、また、接触時間も長くなるからです。
g.肛門性交は感染しやすいですか?
膣性交の場合、膣内に射出された精液は、女性が立ち上がるとその大半は体外に排出されます。 それでも残った精液に含まれるHIVによって感染は起こります。 これに対して、肛門性交の場合、直腸内に射出された精液は肛門括約筋の働きで体外に出ることもなく、長時間直腸粘膜と接触します。 つまり、肛門性交の場合は、膣性交より長時間HIVを含んだ多量の精液と接触しているため感染しやすくなるのです。
f.オーラルセックスで感染しますか?
ただし、条件つきです。 相手の精液や膣分泌液は口の中に入りますが、それらを飲まずに後でうがいをすれば感染はしません。 しかし、飲み込んだり、口の中にHIVを含んだまま寝込んでしまうと、接触時間が長くなるため感染の可能性はあります。
[治療]
HIVの分子生物学的な研究が進んだ結果、AIDSの治療は不可能ではありません。
薬剤でHIV増殖を抑制して進行を遅らせることも大事です。
1.HIVが宿主細胞に結合する段階を阻害する薬剤
CCR5阻害剤などによる HIV粒子と細胞表面レセプターとの結合・膜融合の阻害。
2.逆転写酵素の作用を阻害する薬剤
NRTI、 NNRTI
3.HIVのたんぱく質合成を抑制する薬剤
インテグラーゼ阻害剤(INSTI)
4.HIVたんぱく質から糖を切り取る酵素の作用を抑制する薬剤
HIVのプロテアーゼ阻害剤
5.HIVの出芽を減少させる薬剤
などがあるとのことです。
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この度!地下足袋!リンクの旅へどうぞ~
詳しくは
花野井薬局プライベートノート“「性感染症」のチョコット知識”
花野井薬局プライベートノート“「感染症」のチョコット知識”を
ご覧ください。
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