抗生物質のチョコット知識⑦
マイコプラズマ肺炎
マクロライド系抗生物質の免疫学的効果
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第Ⅰ~第Ⅱ段階までは、少なくとも2日、大病院の検査検体数の多いところでは 病原菌の同定と感受性を調べるまでには5日ないし一週間の日数は要します。
患者さんが息も絶えだえのときに医療機関は検査結果を3日も4日も待てるはずがありませんね。
そこで、 細菌の形態や性質、それに抗生物質の抗菌力、これらに副作用を考えた基礎データと、医療機関の今までの豊富な 臨床経験をもとにして抗生物質を選び、即投与します。
たとえば、細菌性肺炎には、病原菌を黄色ブドウ球菌か肺炎球菌のグラム陽性球菌と考えて 、よく投与される抗生物質にはペニシリン系、セフェム系の点滴静注とアミノグリコシド系の筋注 または静注(側管注)との併用が多いとのことです。 ただし、
マイコプラズマ肺炎(原発性異型肺炎)の場合は マクロライド系かテトラサイクリン系、ニューキノロン系の抗生物質を投与します。
[動物の細胞(模式図]
原核細胞の細菌マイコプラズマには核膜がないばかりでなく、細胞壁もないので、ペニシリン系、セフェム系抗生物質(いずれも細胞壁合成阻害剤)の効果は期待できません。
たんぱく合成阻害剤のマクロライド系かテトラサイクリン系、または、核酸(DNA)合成阻害剤のニューキノロン系の抗生物質が投与されます。
ただ、妊婦と小児に対して、テトラサイクリン系は骨や歯牙形成への有害作用、ニューキノロン系は安全性未確認のため、使用するには細心の注意が必要です。
しかし、抗生物質が必要以上に使用されるようになると、 いろいろ不都合な面がでてきます。
とくに困るのは、細菌が抗生物質に慣れっこになってしまうことです。 (薬剤耐性獲得)。
ヒトはまたその耐性菌に効果のある抗生物質をまた、つくり出します。
そうすると細菌も負けずに、 逆にその抗生物質に対して抵抗力のある病原菌を生み出します。
つまり、抗生物質と細菌のシーソーゲームが始まり、ここに、抗生物質と細菌の終わりなき戦いの火蓋が切って落とされたのです。そして、 感染症がある限りこれは果てしなく続くことと予測されます。
さらに感染巣においても抗生物質の使用によって感受性のあるものは死滅し、感受性のないものが急激にはびこるということが起こります(菌交代現象)。
なかでも、病巣が抗生物質の抗菌力の及ばないカンジダのようなカビ(真菌)やウイルスに支配されると、重症感染症に陥り、 治療が悲観的になる場合もあります(菌交代症)。
だらだらと抗生物質を長期間使用するのは避けることです。 ただ、
マクロライド系抗生物質(クラリスロマイシンやエリスロマイシンなど)を滲出性中耳炎や慢性副鼻腔炎、細気管支炎、気管支拡張症などに少量(常用量の半分くらい)を長期(3カ月~2年程度)に投与すると、治療効果が期待できます。
これは14員環構造をもつマクロライド系抗生物質には抗菌作用以外に免疫学的な効果(プレイオトロピック効果(play-oh-tropic effect):多面的作用)が認められているからです。
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結局! 薬局! 花野井薬局!
ス-パ-細菌
最近、抗生物質がほとんど効かなくなる遺伝子をもつ多剤耐性菌(俗称 ス-パ-細菌) による感染症が世界各地で増えています。
この遺伝子は「ニュ-デリ-・メタロベ-タラクタマ-ゼ-1(New Delhi metallo-β-lactamase-1:NDM-1)」と呼ばれる抗生物質を分解する酵素を作る働きがあり、この酵素をもった細菌は多剤耐性菌に変異します。
この遺伝子は染色体とは別の細胞質環状DNA(プラスミド:plasmid)上にあるため、細菌から細菌に移りやすく、大腸菌(Escherichia coli)や肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)などの腸内細菌(Enterobacter)のみならず、さまざまな細菌にも広がっています。
これらのス-パ-細菌に感染すると、菌や菌の毒素が全身に広がって臓器に重篤な炎症を起こし、致死率の高い敗血症(sepsis)などになる恐れがあります。(2010-08-16 英医学誌ランセット電子版から引用)
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抗生物質は極めて有用性(有効性と安全性)の高い薬剤です。 短期間のうちに効力の無いものにしてしまわないよう投与、 服用には細心の注意を払うべきでしょう。
これらのことから、a.抗菌スペクトラムの拡大、b.併用による協力作用、c.耐性菌出現の防止、 d.副作用軽減などのため、併用効果を期待する投与が行なわれている、とのことです。
[考えられる抗生物質の併用]
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