なにをいまさら、されど 「食中毒」④
そして、下痢原性大腸菌は次の5種類に分類されます。
i)腸管病原性大腸菌(Enteropathogenic E. coli)
この菌は乳幼児下痢症を起こすので重要視されています。成人に対しては急性胃腸炎を起こします。
汚染源は患者や保菌者の大便または家畜の排泄物などで、この菌の増殖した飲食物を摂食することによって発症します。
潜伏期は8~30時間で、症状はサルモネラ食中毒に似ていますが、一般にサルモネラの症状より軽いそうです。
ii)腸管細胞侵入性大腸菌(Enteroinvasive E. coli)
この菌は分類上は大腸菌ですが、むしろ、経口伝染病の赤痢と同じ病状を呈します。 すなわち、急性大腸炎を起こし、発熱、腹痛、しぶり腹(裏急後重)などの症状があり、大便には粘液だけでなく膿や血液が混じります。 この菌は赤痢菌(Shigella dysenteriae)と同様に伝染性がありますからご注意ください。
iii)腸管毒素原性大腸菌(Enterotoxigenic E. coli)
この菌は人間さまの腸管内で増殖するとエンテロトキシン(コレラ菌のつくるコレラ毒素と類似)を産生します。 この菌による食中毒では水様便の下痢を起こしますが、発熱はなく、症状は一般に軽いとのことです。
汚染源や汚染経路は腸管病原性大腸菌の場合と同様です。
熱帯や亜熱帯地方に旅行する人間さまが「旅行者下痢」にかかることがありますが、その多くはこの菌によるものとみられます。
iv)腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic E. coli)感染症 (三類感染症)
腸管出血性大腸菌食中毒はこの菌の産生する毒素ベロトキシン(Verotoxin =志賀毒素:志賀赤痢菌のつくる毒素)によるもので、下痢、腹痛、粘血便、発熱のほか出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)、急性脳症を併発します。 ことに、免疫力の低下した高齢者や抵抗力の弱い乳幼児が感染すると致命的となることがあります。
[腸管出血性大腸菌の感染経路と病原性]
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かの悪名高い腸管出血性大腸菌O157やO111、O26などはこの下痢原性大腸菌に属し、腸の中で増殖、粘膜に作用して出血性の下痢や激しい腹痛を起こします。
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腸管出血性大腸菌O157やO111、O26などの最大の特徴は、通常、感染型食中毒は腸内に10万個以上の生菌数が存在しないと発病しないのに対し、これらの菌は生菌数が100個前後の微量で発病するということです。
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微量感染という点では赤痢や腸チフス、パラチフス、コレラなどの経口伝染病によく似ています。
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また、腸管出血性大腸菌O157やO111、O26などの潜伏期間は摂食した菌量にもよりますが、一般に4日~8日とされています。 放っておくと、この菌の産生するベロトキシンのために溶血性尿毒症症候群や腎不全を引き起こして死に至ることもあります。
致命率[(死者数/患者数)×100]は2~3%にも達します。
腸管出血性大腸菌O157やO111、O26などの汚染源は井戸水や生肉の可能性が高いといわれています。 下痢原性大腸菌のなかでも最も 悪質な大腸菌なのです。
腸管出血性大腸菌O157やO111、O26などに対する予防としては、調理前、調理中、調理後の器具の熱湯消毒と飲食物の60~70℃の加熱、または煮沸があげられます。
v)腸管凝集粘着性大腸菌(Enteroaggregative E. coli)
熱帯や亜熱帯の開発途上国において、2週間以上の長期にわたって続く乳幼児下痢症から多く検出されています。
細菌性食中毒を起こす細菌としてはセレウス菌(Bacillus cereus)や ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、カンピロバクター(Campylobacter jejuni)なども知られています。
セレウス菌はグラム陽性桿菌の好気性芽胞形成菌です。
食品中では、芽胞をつくって生存するため、熱に抵抗性があり、殺菌するには100℃で20~30分間の加熱が必要です。
エンテロトキシンをはじめ、いくつかの異なる毒素をつくります。
ウェルシュ菌はグラム陽性桿菌、偏性嫌気性芽胞形成菌です。
この菌も熱に強い芽胞をつくるため、高温でも死滅せず生き残ります。また、食品の中心部は酸素の無い状態なので、発育に適した温度になると発芽して急速に増殖を始めます。
毒素エンテロトキシンを産生します。
カンピロバクターはグラム陰性桿菌、ラセン菌です。
微好気性の性質をもっていて、芽胞は形成しません。
好気的条件ではまったく発育しないばかりか、嫌気培養でもほとんど発育しません。
この菌の発育には3~15%の酸素が必要です。
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