なにをいまさら、されど「食中毒」(5)
アレルギー様食中毒、ウイルス性食中毒
(1)アレルギー様食中毒
細菌がかかわる食中毒として、ヒスタミン(Histamine)によって引き起こされるアレルギー様食中毒があります。
食品中に異常に蓄積したヒスタミンの作用によって起こる食中毒です。
(免疫反応の異常によって起こる食物アレルギーとは発症機能が異なりますが、症状が似ているのでアレルギー様食中毒と呼ばれます。)
食後1時間ぐらいから、口の周りや耳たぶに紅潮・熱感、さらには眠気、頭痛、発熱、じん麻疹様発疹などのアレルギー症状が現われます。そのとき、腹痛や下痢などの胃腸炎症状はほとんどみられません。
アレルギー様食中毒は、赤身の魚(イワシ、マグロ、サンマ、サバなど)に比較的多く含まれているヒスチジン(Histidine)がモルガン菌(Morganella morganii)などのヒスタミン生成菌によって脱炭酸されてできた、起炎物質ヒスタミンの付着した魚肉を食べたときに発症します。
ヒスタミンは熱に強く、分解されないため、魚肉中に蓄積すると加熱しても取り除くことができません。
ヒスタミンは生体アミンの一つで、副交感神経興奮剤アセチルコリン(Acetylcholine)に似た一面をもっています。そして、いろいろな効果を特定の臓器、器官にもたらします。
[ ヒスタミンの主な作用 ]
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ヒスタミンが魚肉に蓄積されるのは、漁獲から加工、流通、調理、消費の間に魚肉が室温に長時間放置されるなど不適切な温度管理が原因と考えられています。
そして、アレルギー様食中毒の予防策としては、
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などがあげられます。
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(2)ウイルス性食中毒
(a)ノロウイルス食中毒
胃腸炎の原因となるウイルスには主にノロウイルス(Norovirus)、ロタウイルス、腸管アデノウイルスなどがあります。 なかでもノロウイルスは集団発生食中毒の病因ウイルスとしても知られています。
[ウイルスの食中毒]
ウイルス(Virus)は、ほかの生物の細胞を利用して自己を複製させることができる微小な構造体です。
ウイルスは、生物細胞の核膜と染色体のみの核に似ていて、たんぱく質の殻とその内部に入っている染色体(DNAまたはRNA)とからなり、構造は単純です。
ノロウイルス胃腸炎の原因食品としてカキ、サンドイッチ、サラダ、ケーキなどがあげられますが、圧倒的に多いのはカキやシジミ、アサリなど2枚貝の生食による食中毒です。
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感染者の嘔吐物や下痢便中のノロウイルスが河川に排出されると、ノロウイルスはその下流の海水中で養殖されているカキの中腸腺に取り込まれます。 そして、中腸腺に蓄積されたノロウイルスで汚染されたカキを生食すると感染発症するのではないかと考えられています。
【ノロウイルス】
[感染経路]
ノロウイルスのついた食品(カキやサンドイッチなど)を生や加熱不十分で食べたり、汚染された水道水や井戸水を飲んだりすると感染します。
ヒトからヒトへのノロウイルスの感染力はきわめて強力です。
とくに、感染者の糞便や嘔吐物から手指を介して感染します。また、感染者の糞便や嘔吐物には排出されたノロウイルスが大量に含まれているため、飛散した飛沫のなかのわずかな量のウイルスが体に入っただけでも容易に感染します。
感染者は入浴を避け、シャワーにするよう心がけてください。
[治療]
ノロウイルスの潜伏期間は24~48時間と短く、主な症状は吐き気、嘔吐および下痢です。腹痛、頭痛、発熱などもみられます。嘔吐.下痢に至っては一日数回から十回以上のときもあるため、脱水症対策として十分な水分の補給が大切です。
そして、早めに医療機関を受診してください。
特効薬はないといわれています。
抗生物質といえどもウイルスに対しては効果はありません。下痢の期間を遷延させるのでノロウイルス感染症には抗生物質を通常は使用しないとのことです。
ただ、漢方薬の五苓散(経口や注腸)がノロウイルス感染症に効果が期待できるというお話はあります。
[予防]
1. もっとも重要な予防法は手洗いです。帰宅時、食事前とトイレの後には流水.せっけんによる手洗いをしましょう。手首から指先まで洗い、30秒以上洗い流してください。
ポピドンヨード(イソジン泡ハンドウォシュ)は細菌.真菌からウイルスまで手指.皮膚の殺菌.消毒に使われています。
2. 貝類などの内臓を含んだ生食はなるべく避け、食品は85~90℃で90秒以上加熱調理をしたものを食べましょう。
3. ノロウイルスは酸や乾燥に強く、エタノールや逆性せっけんにも抵抗性があるので、嘔吐物を洗い流した場所の消毒は次亜塩素酸系消毒剤(濃度は200ppm以上、家庭用漂白剤は約200倍程度に薄める)を使用します。
次亜塩素酸系消毒剤を使用して手指などの消毒をするのは絶対にやめてください。
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結局! 薬局! 花野井薬局!
ノロウイルスは適切な培養細胞での増殖がないため、ノロウイルスの代替ウイルスとして組織培養可能なネコカリシウイルス(FCV)を用いた
消毒薬の不活性化試験
グルタラール(グルタルアルデヒド水溶液)、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)、ヨウ素系消毒薬(ポピドンヨード)が有効で、第四級アンモニウム塩(逆性せっけん)は無効、75%エタノール(C2H5OH)は効果が弱い、という報告*があります。
* Doultree,JC.et al.Inactivation of feline calicivirus,a Norwlk virus
surrogate .J Hosp Infect.41,1999,51-7.
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(b)ロタウイルス食中毒
ロタウイルスは経口感染によってヒトに感染し、下痢症を起こす食中毒の原因ウイルスです。
便中に排泄されたロタウイルスが経口的に侵入し、小腸に到達するとじゅう毛突起先端の上皮細胞に感染し、増殖します。
増殖力、感染力とも強く、ウイルス粒子が糞便1gあたり1000億個に達することもあります。一方、10個以下でも感染が成立することがあります。
感染によってじゅう毛上皮が破壊されるため、小腸での吸収が障害され下痢を起こします。しかし、
体液性免疫(抗体)と細胞性免疫(キラーT細胞やNK細胞など)との連携プレーによってウイルスおよび感染細胞が除去され治癒します。
破壊された小腸上皮細胞は約一週間で修復されます。
[治療]
ロタウイルスに対する抗ウイルス薬はありません。脱水症を起こさない治療(経口補液、静脈輸液など)が中心になります。
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細菌性やウイルス性食中毒の治療としては、熱発や下痢による脱水症を予防するため安静にして十分な水分の補給を行います。 しかし、サルモネラや下痢原性大腸菌などが原因の重症患者には、抗生物質の投与も止むを得ないでしょう。
ところで、細菌性やウイルス性食中毒の発生場所はなんといっても家庭内が一番多いのです。 水あたり、食あたりなどは大なり小なり食中毒と考えてもよいでしょう。 学校給食が怖いといっても、お弁当はもっと怖いのです。
下痢原性大腸菌といえども私達にとっては同じ仲間の大腸菌です。 ここで、“罪ほろぼし”に細菌性やウイルス性食中毒の予防法をお教えいたします。
まず、
第一に、夏バテなどによる体力の低下を防ぎ、“免疫を高める”ことです。
第二に、飲食物を取り扱う器具類や服装は“清潔”なものにして下さい。
第三に、飲食物を低温冷蔵や加熱することによって細菌の増殖を抑えたり、殺菌できるよう“温度”を考えて下さい。ただし、冷蔵庫をあまり過信しないように。
第四に、ほとんどすべての食中毒菌やウイルスは人間さまの生活する環境で増殖します。 調理後は、“迅速”に食べてしまうことです。
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結局! 薬局! 花野井薬局!
滅菌➽目的とするもののうちに含まれるあらゆる微生物を殺して完全な無菌状態にすること。
消毒➽対象物中の病原菌を殺して感染の危険を取り除くことをいい、非病原微生物は生き残っている状態。=殺菌
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