なにをいまさら、されど「食中毒」⑦
植物性自然毒食中毒
自然界には有毒な植物が数多くありますが、普通、食用とはしていません。しかし、食用にできるものと間違えて食べて中毒を起こすことがあります。
①、有毒キノコ
有毒なキノコとして知られているものは約30~50種類あります。キノコの発育と季節との関係から、キノコ中毒は9~10月に大部分が発生しています。キノコは経験ある人間さまによってはっきりと安全であると確認できたもののみを食用とし、わからないものは避けることが賢明でしょう。
キノコで中毒を起こすのは有毒キノコかどうかの鑑別がなかなか難しいからです。
昔から伝えられている鑑別法がありますが、これも例外が多く信用できないのが現状です。
たとえば、
1.茎が縦にさけるキノコは無毒
○マツタケ、シイタケ ×タマゴテングタケ
2.色が鮮明なキノコは有毒
○テングタケ ×ニシキタケ、タマゴタケ
3.色が鮮明じゃないキノコは無毒
×ツキヨタケ
4.キノコを乾燥すれば毒が消える ×
5.虫が食べた痕のあるキノコは食べられる× など
有毒キノコと毒成分
A.ムスカリン(muscarine)群
テングタケ、ベニテングタケの毒成分として知られています。
B.アマニタトキシン(amanitatoxin)群
タマゴテングタケ、ドクツルタケなどの毒成分です。
C.ジロミトラトキシン群
シャグマアミガサタケの毒成分で、嘔吐、下痢などを起こします。
有毒キノコと中毒症状
A.胃腸型中毒症状
食後1~2時間で発病、おもに嘔吐、腹痛、下痢などの胃腸障害を起こすもので死に至ることはまれです。ツキヨタケなどの中毒がこれに入ります。
B.コレラ様中毒症状
食後6~12時間で、嘔吐やコレラ様の下痢を伴う激烈な胃腸カタルを起こし、その後虚脱または痙攣、さらには昏睡状態から死に至ることがあります。タマゴテングタケなどの中毒です。
c.脳症型中毒症状
おもに神経系統がおかされて狂騒状態になったり、よだれをたらしたり、発汗したりします。ベニテングタケ、テングタケ、アセタケなどによる中毒がこの型に入ります。
毒キノコによる食中毒を予防するには
1.有毒キノコかどうか迷ったら、絶対に食べないようにしましょう。
2.食べられる種類とわかっているキノコ以外は採らないようにしましょう。
3.キノコの毒は調理してもなくなりません。口にしないようにしましょう。
4.採取したキノコは人間さまの間であげたり、もらったりしないようにしましょう。
②、麦角中毒
ライムギなどに麦角菌(Claviceps purpurea)が寄生し、かたく黒い角状の菌核(保続性菌体)をつくることがあります。これを麦角といいますが、麦角には分娩促進薬のエルゴタミン(ergotamine)やエルゴメトリン(ergometrine)などのアルカロイド成分が含まれています。
さらに、保続性菌体(麦角)はLSD(幻覚剤)の原料にもなります。
穀類中に0.25~0.5%の麦角が含まれると有毒となり、7%以上では死に至ります。麦角中毒症状にはけいれん型と壊疽型があり、けいれん型では悪心、嘔吐、筋肉痛、視力障害などが現われ、壊疽型では皮膚の栄養障害、つづいて手足などに壊疽を起こします。
③、青酸配糖体中毒
ビルマ豆にはリナマリン(linamarin)という青酸配糖体が含まれています。これはシアンと糖が結合(糖-CN)した物質です。青酸配糖体を摂取すると胃内で加水分解され、シアン化水素(青酸 HCN)を発生して中毒を起こします。青酸化合物の致死量は青酸として0.05gという猛毒です。
青梅やギンナンの中にもアミグダリン(amygdalin)という青酸配糖体が含まれています。
④、ジャガイモ中毒
ジャガイモの発芽した部分と緑色の部分にはソラニン(solanine)が多く含まれています。新芽などで0.1%以上に達すると有毒となります。ソラニンは摂取後数時間で発病して腹痛やめまい、眠気などを起こします。
⑤、ドクムギ
ドクムギ(Lolium temulentum)は小麦によく似ていています。ドクムギに寄生した糸状菌の出すテムリン(temuline)の中毒症状は、頭痛、めまいのほか、嘔吐、便秘または下痢などです。重症になると、不整脈や手足の痙攣を起こして死亡することもあります。
⑥、トリカブト
トリカブト(Aconitum japonicum)にはアコニチン(aconitine)という猛毒のアルカロイドが含まれています。アコニチンを摂取後、症状はかなり早く現われます。経過も速く、唇や舌がひりひりして、のどや胃も熱くなり、よだれが出てきて吐き気が起こります。さらには手足が麻痺し、物が飲み込めなくなります。脈もだんだんと遅く不規則(不整脈)になり、顔面蒼白。3~4時間で意識不明となり、呼吸困難で死に至ります。
トリカブトは神経毒です。
神経細胞膜にはNaイオンだけを通過させるNaチャンネルがあります。
このNaチャンネルは通常は閉じていますが刺激されると開く性質を持っています。そして、このNaチャンネルが開くと細胞外にある大量のNaイオンが神経細胞内に流れ込み、その場所だけプラス、マイナスの電位が逆転し、パルス波が発生します。
このパルス波が神経細胞の軸索の表面に沿ってつぎつぎと発生していくのが活動電位(インパルス)です。
トリカブトの毒もフグ毒と同じ神経毒です。この毒はNaチャンネルを開きっぱなしにするので、大量のNaイオンが細胞内に流入し、活動電位を遮断します。これにより、情報伝達も不可能となります。
⑦、ドクゼリ
普通のセリは高さが約30cmですが、ドクゼリ(Cicuta virosa)は90cm以上にもなります。間違えて食用にすると、チクトキシン(cicutoxin)という痙攣性の毒をとくに地下茎に多く含んでいるため、食べて数分か、遅くとも2時間以内に発症し、経過は速く、死亡することがあります。
⑧、ハシリドコロ
ハシリドコロ(Scopolia japonica )の根(ロート根)をヤマノイモと間違えて食べることがあります。アトロピン(atropine)やスコポラミン(scopolamine)、ヒヨスシアミン(hyoscyamine)などのアルカロイドを含んでいるので、食べると興奮し、精神発揚、幻覚、錯乱、狂躁状態となり、心悸亢進から呼吸停止を起こします。食べると興奮して走り回ることからこの名がついています。
⑨、シキミ
シキミ(Illicium anisatum)は料理に香辛料として用いられるダイウイキョウ(Illicium verum)に似た実をつけます。シキミン(skimmne)などの有毒成分を含むので、子供が間違えてシキミの実を食べると嘔吐や痙攣を起こします。
⑩、ドクウツギ
ドクウツギ(Coriaria japonica)は高さ1.5m程度の落葉樹です。果実の甘い汁にコリアミルチン(Coriamyrtin)などの有毒成分を含むので、食べると嘔吐、痙攣を起こし、死に至ることもあります。
⑪、ヒガンバナ
ヒガンバナ(Licoris radiata)はマンジュシャゲともよばれ、秋には深紅色の花が咲きます。地下茎にはでんぷんが約8%含まれているので、でんぷんの材料として用いられます。しかし、リコリン(lycorine)というアルカロイドも含むので精製が悪いと中毒を起こします。強い嘔吐作用があります。
⑫、チョウセンアサガオ
チョウセンアサガオ(Datura alba )はキチガイナスビとも呼ばれます。種子がゴマと間違えられて食用とされたり、食物に混入したりすると中毒を起こします。アトロピンやスコポラミン、ヒヨスシアミンなどのアルカロイドを含むのでハシリドコロに似た症状を示します。
⑬、その他
カビ毒(mycotoxin)
・アフラトキシン(aflatoxin AFT)
アスペルギルスフラバス( Aspergillus fravus)などのカビによって産生され、ごく微量で肝臓がんを引き起こします。
・黄変米に繁殖したペニシリウム属(Penicillium属)のカビ など
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結局! 薬局! 花野井薬局!
毒と薬!
◎麦角→リゼルグ酸→エルゴタミン、エルゴメトリン
*分娩促進(子宮収縮、陣痛微弱)
→LSD(幻覚剤)
*視覚、聴覚、時間、空間の感覚や感情などの
大脳の作用を狂わす。
◎トリカブトの塊茎を乾燥して漢方に使用
子根を附子(ブシ)、母根を烏頭(ウズ)
*食べると嘔吐・呼吸困難、臓器不全などから死に至ることも。
経皮吸収・経粘膜吸収され、経口なら摂取後数十秒で死亡し即効性がある。
トリカブトによる死因は、心室細動ないし心停止。
*強心作用、利尿作用、鎮痛作用
・加工ブシ末
・修治ブシ末
・炮附子末
*八味地黄丸 *麻黄附子細辛湯 *真武湯 *桂枝加朮附湯 などに
◎ハシリドコロとチョウセンアサガオ
→アトロピン、スコポラミン、ヒヨスシアミン
(少量では副交感神経抑制薬:抗コリン作動薬、大量では精神錯乱)
*効果:瞳孔を開く(散瞳薬)、胃腸の痛みをとる(鎮痙薬) など
*副作用:口渇、便秘、排尿障害、眼圧上昇 など
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